巻頭言『”老いる”ショック』
「オイルショック」ならぬ「”老いる”ショック」、もちろん駄洒落である。いつぞやの例会でこのフレーズを披露したら、句会場が大いに沸いた。
結構、けっこう。親父ギャグなどと言うなかれ。日本語には同音異義語が多いのだから、洒落は立派な日本文化なのだ。古今和歌集の時代には、掛詞と呼ばれて和歌の修辞の一つにもなっている。これを「親父ギャグ」などと蔑むのは、日本文化を知らない輩の言うこと。加えて、中年男性(=親父)に対する差別意識も感じられてならない。
おっと、ノッケから脱線した。
『老害の人』(内館牧子)が面白い!
内館牧子著『老害の人』(講談社)を読んだ。
たはははは。…… そうそう、小説は楽しく読みたいものだ。国文科の学生時代だったら眉間に皺寄せて難行苦行のような難解小説と向き合うことも多々あったが、老人となったいまはその必要は全くない。有り難い。
その内館小説。
最新刊『老害の人』は、『終わった人』『すぐ死ぬんだから』『今度生まれたら』に続く、著者版「高齢者小説」の第四弾になる。
老害の人! たしかに、いる、いる。
「迷惑!」と思われているのに、一向に意に介さない人。昔話の長いこと、長いこと。すぐ若者にお説教をしたがる御仁。他人の事情を付度しないで、自身の趣味の講釈を垂れる人(ココは小生も要注意!、笑) 。病気自慢に孫自慢。
聞いてもいないのに(聞きたくないのに)、自慢たらたらの病気武勇伝。止まらない孫自慢にも呆れるほど閉口する。かと思えば、一転してクレーマーに大変身。ああ、オソロシや。ン、もう、いい加減にしてくれよ!
『老害の人』のような小説は、気楽に楽しむのが一番だ。こうはなりたくないもの、と思って読むのも構わない。ただし、「オレは絶対こんな人間じゃないゾ」などといきり立って読むのはイケナイ。この時点でもう「老害の人」と言われそう。ご用心、ご用心。
内館牧子の小説は、畳みかける調子に真骨頂がある。
(この場合の「匠の技」は皮肉)楽しみながら読んだこの小説の、ある一節が気になった。
私も若い時は海外旅行がしたい、お金が欲しい、雑誌に出ていた服がほしい、すてきな人と出会いたい、友達より幸せになりたい、あの人には負けたくないって、もう欲だらけよ。でも何十年かたった時、ふと気づいたの。今の私はどれも全然欲しくないって。何であんなに欲があったんだろうね。あの時、若い時代は遠くに遠くに…… 行ったんだと思った。
『ほんとうの定年後』(坂本貴志)から学ぶ
正確な現状把握から入っている(このところ、事実を確かめないで持論を展開するマスコミ人のナント多いことよ。そんなマスコミに踊らされぬよう、ご注意あれかし!) 。学ぶことが多かった。
著者・坂本貴志は、データをもとにこう指摘する。
総務省「国勢調査」によれば、2020年における70歳男性の就業率は45.7%とすでに半数近くの70歳男性は働き続けるという選択を行っている。……
少子高齢化で生産年齢人口が減少するなかで、高年齢者の労働参加に対する社会的な期待は年々高まっている。近い将来、定年後も働き続けることはますます「当たり前」になっていくだろう。
なるほどねぇ。たしかにそのとおりかも知れぬ。
一方、老人はどうしても先入観にとらわれがちである。これまでの経験則からなかなか脱皮できない。
振り返れば、いわゆる「専業主婦」が絶滅したのはもう20年も前の話。その前後から、女性の社会参加・労働参加が加速化し、さらに外国人労働者の雇用へと踏み込んだ。働く高年齢者が増えたという実感はあったが、統計でここまで示されると社会の変化を受け入れざるを得ない。
そっか!これだから後継者がいないのか。
急速に進む日本社会の少子高齢化。人材が乏しい、後継者が見当たらぬ。若い人が入ってこない等、私たちの悩みは尽きない。だが、これこそまさしく日本の実態なのだ。
現役世代は減少し、減少し続けている。現役の日常はまずは仕事であり、子育てであろう。生活そのものに追われる日々なのだ。その世代が趣味に興じるなんていうのは、夢のまた夢。稀有な事例と考えた方がよい。
定年後はどうか。退職の年齢はどんどん高くなり、なおも延長傾向にある。健康で能力がありヒマを持て余している老人など皆無。そういう老人なら、有為な働き手として頼りにされる。働けばだいいち、お給料が入る。
こういう厳しい状況を私たちはまず認識しなければなるまい。その上で、日本と日本社会の近未来をどう描いたらよいのか。そこを考えたい。この本は、会社の社長、団体の役員、ボランティア活動のリーダー、趣味の会の会長といった方々に読んで貰うのがよいかも知れぬ。
著者の坂本貴志は、最後に救いの一言をこう述べている。
趣味の会もしかり。「小さな仕事」「小さな協力」こそが大きな価値を生み出していく。
お陰さまで、東葛川柳会も創立満三五年を過ぎ、37年目のお正月を迎えた。新年の巻頭言にしてはいささかシビアな内容になったが、 —つの現実と受けとめていただこう。
小さな善意が集まって趣味の会が成り立つ。その際に欠かせないのが、チームワークであろう。新年のご挨拶と併せて、改めてこの点を強調しておきたい。