ぬかる道巻頭言コラム

【『ぬかる道』第425号 巻頭言】
『人生、いまが面白い』

ぬかる道巻頭言

巻頭言『人生、いまが面白い』

江畑哲男

昨年の12月の誕生日で、小生も70歳になった。古稀を迎えたというわけだ。平均年齢の高い川柳界からすればまだまだ若い部類に入るのかも知れないが、当人としては多少のショックを受けてもいる。

69歳から70歳に。「60歳代と70歳代」という区分があるが、受ける印象が全く違った!何だかイッキにトシをとった。そんな気にもさせられた。

例えば、アンケートの回答。その年齢欄。選択肢が順番に並んでいて、これまでは「60代」のところに○を付けていた。今度は「70〜」の方に○印が移った。残る選択肢はあと一つのみ。「80〜」が控えているだけである。

「いま」をどう生きる?

翻って考えれば、「老年時代をどう生きるか?」は現代的で、しかも贅沢なテーマである。平均寿命が驚異的に伸びたから発生したもので、人類史上初めて直面した課題と言っても過言ではない。こうした生き方を模索する選択肢のある日本という国は、それだけ恵まれているのだ。

人生100年時代という。『ぬかる道』の読者の大半は、その第四コーナーを回ろうとしている。第四コーナーではどうぞ転倒しないように(笑)上手に回りきって欲しい。その上で、それぞれの〈生〉に向かって欲しい。

「断捨離」という言菓が一時期流行った。これも一つの「生き様」(!?)なのかも知れぬ。「立つ鳥跡を濁さず」という日本的な美意識の表れとも考えられる。しかしこれは、厳密に言えば「生き方」とは呼べない。

そもそも、「人生をどう生きる」とは若者に向けて発せられる問いではなかったか。すなわち、人生のスタート台に立つ、未来ある若者に向かって、長い長い人生の目標なり意義なりを問いかけるものであった。老人などは本来対象外(!) 。若者相手に「人生をどう生きるか」を問いかけ、そこから文学が生まれ、哲学が悩み、映画や演劇、芸能等でも取り上げられてきたという経緯があった。

そのデンで申せば、下の比喩は成り立つか。

第一コーナーは、自我の覚醒期。主として10代。もがくことが多い。
第ニコーナーは、自我の確立期。恋愛や結婚、職業の選択が控えている(もっとも、近年では結婚しないという選択肢も増えてきた) 。
第三コーナーは、仕事・社会・家庭・交友関係・趣味など、あらゆる分野での活動期になる。第二コーナーと第三コーナーは重なりあうことが多く、この約40年間が人生で最も長く、輝かしい時期だ。それぞれが個性を発揮し、自らの生き方を決定できるのもこの時期の特権であろう。
そしていま、私たちは第四コーナーに差しかかっている。

ある「仮説」

ある勉強会でこんな「仮説」を披露した。

文学に目を向ければ、「老いをどう生きるか」はこれまでになかったテーマだと思う。むろん老人を扱った作品はいくつかあった。ランダムに挙げるなら、『嫌がらせの年齢』(丹羽文雄)、『悦惚の人』(有吉佐和子)、『博士の愛した数式』( 小川洋子)、『黄落』(佐江衆一)などなど。たしかにこれらは〈老人〉を扱ってはいる。しかしながら、〈老人〉目線とは言えないような気もする。

この点で、内館牧子の高齢者小説シリーズがベストセラーになったのも、和田秀樹精神科医の本がいま売れに売れているのも合点がいく。これらは、いずれも〈高齢者の立場と視点〉に立っているからだ。

小生が勉強会で披露した「仮説」とは、こうした状況に鑑みて〈高齢者の立場と視点〉に立った作品を書いてみたらどうか。きっと売れるげこの分野は、まだまだ未発掘で未開拓。題材は山ほど残っているだろう。『ぬかる道』の読者の皆さんが小説にすれば、ひょっとして芥川賞や直木賞の候補になれるかも?そんな夢想であった。

話はさらに横道に逸れる。〈老い〉を〈老い〉の視点で書いた小説がなかった訳ではない。例えば、『瓶痴老人日記』(谷崎潤一郎) 。だが、あの性倒錯の世界にはとてもついていけない。一般的でもない。小生のような「健全な老人」はもちろん、若き日の小生も谷崎文学の世界はご遠慮申しあげてきた。それゆえにもっと現代的で、明るくおおらかな高齢者を主人公にしてみたらどうだろうか。話題になりそう?少なくとも面白い展開になりそうな気はしているのだが、閑話休題。

今年は〈攻め〉に出る!

話題を変えよう。新春句会でこんな決意を申しあげた。「今年は攻めていきたい」、「攻めに転じたい」と。

① 句会を面白くする

川柳人は句会が好きなのだ。あのライブ感がたまらない。その句会をさらに活気づけたい、面白くしたい!老若男女( 「若」はいない)など、さまざまなバリエーションを模索しながら、皆さんに提供していきたい。川名信政当日選者担当とも息を合わせながら。

② 各地で講演を展開する

コロナ下からの反転攻勢を狙う。会場さえご用意いただければ、小生どこへでも出かけるつもりだ。会員の皆さんにはそのお膳立てをしていただければ有り難い。
早くも要請一件。来る4月21日(金)午後、市原市国分寺公民館で川柳の講演会を開催する。演題は「川柳と日本語の魅力」(江畑哲男)で、川柳人以外の方々にも楽しめるようなテーマを設定した。これからもそのつもり。

③ 組織を鍛える

記念DVDはご覧になったであろうか。三つのワークをあの中で強調したが、とりわけ大事なのがチームワークだ。コロナ下で少々抜かりもあったが、再び絆を取り戻そう。いずれにしろ、いついかなる時であっても、人生を無為に過ごしてイイはずがない。人生いまが面白い!どうせなら愉快に過ごそう。江戸文化の知恵で言えば、「憂世」から「浮世」へ。そう、「憂世」はもうご免蒙ろう。