巻頭言『東葛川柳会の侍たち』
よい吟社とは人数の多少にかかわらず、良い句が生まれ、会員に心意気があるものだと私は思っています。そして最も大事なことはその吟社を継続させることです。
そのために会員が、入力や選者、文台、会計、などそれぞれの役目を分担します。どの吟社でも長年にわたり黙々とその作業を引き受けておられる方々が沢山いらっしゃいます。ましてや東葛川柳会はその規模から言っても並々ならぬ作業になります。
昨秋35周年の記念句会を開催、130名の参加者がありました。綿密な打ち合わせのもと、作業は粛々と進られました。誰もが参加意識がとても高い吟社ですが、そのなかでも長年にわたり引き受けた役目を立派に果たされた方、また現在も黙々と作業を引き受けられている方々に深甚なる敬意と感謝を表する次第です。
今回はそのうちの数名の方々にスポットを当ててみます。
中澤巌さん
彼は実に18年もの間、当会の総務・会計や幹事長(14年間)を務められました。プロ野球なら「名球会入り」は間違いありません。その期間は東葛の最も活気のあった時代、句会参加者が100名を越えたことが何度もありました。吟行会、懇親会など何をやるにも大掛かりで大変でしたが、中澤さんはそれを事もなく遂行されました。持ち前のリーダーシップを存分に発揮されました。
特に全日本川柳協会主催の全国大会が千葉県銚子市で開催されたとき、東葛は一番大変な受付の作業を依頼され、記憶では600名を超える参加者への対応を動員した沢山の東葛のメンバーで見事にこなされました。18年間困難なときもあったと思われますが、弱音は一度も耳にしたことがありませんでした。ご夫妻での日川協全国大会20回の連続参加の記録を更新中であります。東葛はこのご夫妻に大変お世話になりました。ここに感謝の意を表します。
増田幸一さん
95歳を超えておられ、おそらく川柳界でも最高齢の一人です。最近句集『竹の花』を刊行されましたが、作品は老いのひとかけらも感じさせないみずみずしい作品が並んでいました。創作意欲は旺盛で、きやり、川研、新潮社、江戸川など、沢山の吟社と関係し素晴らしい成績をあげています。
数年前からお願いした川柳会・新樹の顧問役を快くお引き受け頂き、互選や選で的確なコメントを頂き、句会を指導していただいています。東葛の句会でも、幸一さんは座っておられるだけでも存在感のある方ですが、問われればご自分の考えを沿々とのべられ,流石は元大手製薬会社の重役を務められた貰禄を示されます。お元気なので百寿を期待しています。
山本由宇呆さん
六斉堂茂雄さんの前任の編集長で『ぬかる道』の編集を総括されていました。それにも増して早くから川柳の指導者を志され、研修を受けて、当時発足した沢山の勉強会をサポートされました。彼の最大の業績は沢山の記念誌の編集発行にあります。新樹でも記念誌は第八集を数えています。
彼はいつも自主的に編集を引き受けられ、費用も実費以外は請求されませんでした。今回も「田辺サヨ子追悼集」を最近不自由になられた目を酷使されて立派な記念誌を作成配布されました。新樹としても大変ありがたい事でした。
作品は技術屋らしい由宇呆さん独特のペースを崩さない味わい深い句を作られています。どの勉強会も彼になにがしかのお世話になっています。彼は決して出しゃばらずいつも静かな存在を貫いておられます。その生きざまは敬意に値します。
六斉堂茂雄さん
押しも押されぬ『ぬかる道』の編集長で、おそらく現在の東葛で一番多忙な存在のお一人でしょう。句会ではいつもカメラを撮りまくり、ゲスト選者のマスクを外させています。行動力は絶品でまた口説きの達人で彼に頼まれると嫌と言えない雰囲気があります。彼の仕事ぶりをみれば当然と思っています。特筆すべきことは、彼が代表を務める川柳会・緑葉の飲み会、東葛の句会終了後やっていますが、その活況は目を見張るものがあります。毎回20名位が集まっています。皆がお酒の勢いも借りて想いのたけを吐露しています。筆者も入れて頂き、酒の勢いで無責任な言動をさせてもらっています。趣味の会に絶対必要な終了後の飲み会を緑葉が補完してくれています。彼の最近の作品は軽妙な見つけでよく抜けており羨ましい限りです。
角田創さん
いつも東葛句会で最前列の筆者の前で辛抱強く句会の進行見守っています。プログラムが淀みなく進行するのは彼の能力です。変動があってもいつも沈着冷静で、気が付けばここ10年来ずっと司会役をされており、かれの右に出る司会者はいないことが証明されています。川柳会・双葉は静かで控えめな印象の句会ですが、東葛には有用な人材を沢山輩出しています。我々新樹も高齢化が進行しておりある時期には双葉さんに吸収してもらおうかとも考えています。彼の作品は鋭いものがあります。
大竹洋さん
松戸川柳会の幹事長をされており、東葛では要職は辞退されています。彼の句づくりは絶品です。平易な内容でも全国区の柳人になっています。筆者が最近足を踏み入れた競吟の句会では、彼は押しも押されぬ存在でいつも賞品を抱えて帰ります。句づくり、見付け、言葉の引き出し、計算された緻密さにいつも感心しております。数年前から犬吠誌で引き受けられた添削講座は神経の行き届いた内容で添削、または改作もありますが、目を見張る出来栄えで読み応えのある内容になっています。相当のベテランも添削にチャレンジしています。ある程度まとまれば「大竹洋の添削講座」として刊行されれば彼のライフワークになるのではと考えています。
以上6人の方にスポットを当てさせていただきました。
懸命にやっている人は必ず誰かは見ていると言いたいのがわたしの気持ちです。
数年前逝去された大戸和興さんは事があるたびに東葛の昔話をしてくれました。彼は東葛の「語り部」だったのです。筆者もそのような年齢になっていることに気が付いた今日この頃です。