遊人のユーモア・エッセイ

モンマルトルの武勇伝

遊人のユーモア・エッセイ

ポン引きと呼ばれる客引きのお兄さんに良く好かれる。理由を考えることがある。

1. お金を持ってそう、2. 好きそう、3. 誘惑に弱そう、4. 決断が速そう...違う違う全部違う。
強いて言えば4. 決断が速そうだが。パリのモンマルトルの丘の麓は有数の歓楽街になっている。赤い風車の「ムーランルージュ」を始めとして、大小さまざまな飲食店が犇めき合っている。当然、客引きも多い。国際観光都市のパリゆえ、英語は言うに及ばずドイツ語、スペイン語など様々な言語が飛び交い、中には日本語で誘ってくる客引きもいる。

偶々、その時は、携わっていた仕事の国際会議がパリであり、マレーシア人と台湾人と一緒だった。案の定お兄さんが寄って来た。最初は中国語で話しかけてくる。どうも中国人と見られたらしい。分からない顔をすると片言の英語になった。二十ドルと言う。大体この種のお店は、古今東西客引きの言った値段の五倍が相場だ。百ドルならまあまあである。中国人とマレーシア人に話すと、まあいいだろうと言う。国籍の違い、肌の違い、文化の違いを超えて、いとも簡単に三人の男の話は纏まった。

店の中に入り安心した。客が沢山入っているし、明らかに観光と思われるアメリカ人らしきカップルもいる。これで少しあった不安も消えた。中央のステージではいわゆるレビューと呼ばれるショウをやっている。典型的なパリのナイトクラブである。そうこうしている内に、我々三人の席に女性が一人付く。色の浅黒い黒髪の中々エキゾチックな美人である。出身はと訊くとモロッコと言う。(おおモロッコ、マラケッシュ、カスバの女)と詩的興奮が湧く。

悲劇は数本のシャンパンから始まった。シャンパンがでたら、とにかくその店から逃げ出せはヨーロッパの飲み屋の法則その一である。気が付くとテーブルにはシャンパンが既に二三本抜かれている。席に女性も増えて男一人に女二人位になっている。女性たちは、あほな東洋人三人組のお蔭で今日のノルマ達成とばかり、ハイテンション。何も知らない台湾人もマレーシア人もそれに輪をかけて乗りまくっている。(やられた。これが噂に聞くパリのぼったくりバー)パスポートや財布をホテルに預けてきて良かった。ポケットには百ドル紙幣が一枚、フランが少々。見知らぬ土地で飲むときの鉄則、必要な現金だけを持っていくが役に立った。

ボーイが請求書を持ってきた。日本円に換算し約二十万円。シャンパン二三本、ショウを見て、女の子と話して約一時間、どう見ても高い。払え、払わぬとの押し問答が続く。こちらは三人、向こうは一人。興奮してきて相手はフランス語、こちらは日本語、マレー語、台湾語で対抗。バベルの塔の壊した神様がどこかでほくそえんでいる。埒が明かないと思ったのか、ボーイは味方を連れてきた。安岡力也風、その子分と思しき、川谷拓造風の二人の男、これで三体三になった。

さて、これからがフランス野郎三人組と東洋人三人組のガチンコ名勝負だが、大分話が長くなってきので、ここから先は次号に回すとしよう。

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