ぬかる道巻頭言コラム

【『ぬかる道』第451号 巻頭言】
『増田幸一顧問 白寿の御祝い 』

ぬかる道巻頭言

巻頭言『増田幸一顧問 白寿の御祝い』

副代表 川崎 信彰

東葛川柳会二月句会三句連記で、選者の江畑哲男代表が最後に特選に抜いた句は、「人生の逆走ならばしてみたい」であった。呼名は増田幸一さんだったので、会場は「おーっ」とどよめきました。まさに幸一さんでなければ詠めない作品でした。

多士済済の東葛で

多士済済の東葛川柳会で全国の吟社に誇れることの一つに、句会に参加されている現役の柳人のなかで、本年6月に白寿(満98歳、数えで99歳)を迎えられる増田幸一さんは、おそらく最高齢であると思います。どちらの吟社でもご高齢の方はいらっしゃいますが、相撲で言えば玉鷲関のようなバリバリの現役で通しておられます。幸一さんの作品は全く年齢を感じない瑞々しい作品ばかり、時にはお色気も詠みこんで会場を唸らせています。

体調の方も耳と足は多少弱っておられると仰いますが、ご壮健で健康保険も介護保険の世話にもこれまで全然なっていないと、耳にしたことがありました。

彼はこれまで沢山の吟社に参加して出席句や投句をして素晴らしい成果を挙げておられます。彼の作品には所謂老化を嘆くシルバー川柳はひとつもありません。全く見上げたものであります。

東葛川柳会では幸一さんは柏市の文化連盟の幹部を長年に亘り尽力され、柏市の文化活動にご尽力され、中でも柏市での川柳活動のバックアップをしていただきました。東葛の運営については、決してしゃしゃり出ず、意見を聞けば、淡々と後で聞いても妥当な意見を披歴されていました。

増田幸一顧問の略歴

2022年、幸一さんが刊行されました句集『竹の心』で披歴されておられる略歴によれば、東京台東区生まれ(昭和2年)中大経済学科卒、医薬業界トップランクの(株)ミドリ十字の幹部を歴任され、全国の支店の営業活動に貢献されました。人格もバランスの取れた姿勢で組織や部下をリードされて来たとのことです。

退職後、松戸川柳会、東葛川柳会、番傘川柳本社、川柳きやり吟社、川柳公論、川柳研究社、川柳かつしか吟社、犬吠誌、川柳人協会、他多数の吟社・句会に参加されています。

枚挙されている主たる実績は、

平成10年ちば文化祭公募吟第一席
平成12年小野小町文芸賞
平成14年宮中歌会始詠進歌宮内庁長官賞
平成15年川柳公論蒼塔賞
平成19年犬吠大賞など、余人に代えがたい成果をあげられています。

医薬業界の幹部でしたから、大病院、幹部医師、官公庁のお付き合いで骨身を削られたと思われます。まさに堂々たるキャリアであります。

筆者との関係は体調の話から、便秘の薬や睡眠薬、風邪薬をそっと手渡されて下さいました。お付き合いが本格化したのは幸一さんが行き掛かり上やむを得ず松戸川柳会を退会され、一寸手持無沙汰が感じられたとき、筆者が関係する東葛の勉強会の一つ川柳会・新樹の顧問をお願いしたところ、快く入会して頂きました。

新樹句会での幸一さんのご活躍は目覚ましく、特選を取りまくり、互選では会員が納得する批評を頂きました。句会報に「東奔西走」という出張報告の欄がありますが、毎月幸一さんの報告が掲載されていました。

川柳とは?、を見据えて

幸一さんともうお一人新樹の長老である山本由宇呆さんのお二人に、「川柳アレコレ」というテーマで、隔月にお話を頂くことにしました。

幸一さんには筆者から、作句についてのお考えの披露をお願いしました。それに対する幸一さんのお話はまさに複眼の発想で大変参考になりました。
内容を以下ランダムに記します。

  1. ① 良い句とはどのような句を言うか?どうしたら上達できるか?どちらも正解はない。
  2. ② 選者は気まぐれな神様である。三才句が時には没になる。同一の選者でも選は一貫しない。
  3. ③ 全没は選者が悪いと思うことにしている。
  4. ④ 良い川柳とは、各川柳家のひと言。
    誰にも判って誰も作れない(尾藤三柳)。川柳は人を詠む(米島暁子)、類想句は作らない(大河原信昭)、ユーモアが無ければ川柳じゃない(川上三太郎)、俳句以外は川柳だ(川上三太郎)、題を読み込まず題を表現する(加茂如水)、十七音でドラマを作る(上村脩)、定型厳守(きやり吟社)。
  5. ⑤ 抜かれた句が良い句とは限らない。選者独裁で三オ句も没になる。同じ選者でも没になったり入選句になる。
  6. ⑥ 昔から「穿ち」「おかしみ」「軽み」が川柳の要素と言われてきたが、高度社会の現代において、これだけで評価は出来ぬ。

以上、川柳句会の実態を袂ったお話が参考になりました。このようなお話は幸一さんの作句生活で実感したことで、得難いものであります。句集の題名を『竹の心』とされたように、素直で真っ直ぐな境地を求められていることが伺えます。