遊人のユーモア・エッセイ

消える言葉、変わる言葉

遊人のユーモア・エッセイ

時代とともに言葉は消え、変わると言うテーマほど陳腐なものは無い、と思っていたが、最近、ちょっと面白い言葉にであった。それで、この陳腐なテーマに挑戦してみる気になった。

およそ言葉は、それらが元々持つ直接的な意味やイメージを、少しずつ、柔らかく変えていくものである。毎日お世話になるトイレも昔は厠とか雪隠だった。それが、便所になり、お手洗いになり、トイレとなっていった。

最近読んだエッセイに面白いことが書かれてあった。

今、中国で、いわゆるラブホテルを何と呼んでいるかと言うことである。何と呼んでいるかは後のお楽しみとして、日本では昔、連れ込み旅館と言った。その前は逆さクラゲであった。それがラブホテルになり、いまやアミューズメント・ホテルとかアミューズメント・インなどと言われている...らしい。(よく知らないが)これなら「十六号沿線の彼女と行きたいアミューズメント・ホテル」などと、お洒落な雑誌に載せられる。これが「円山町近辺の彼女を連れ込みたい逆さクラゲ」ではとても記事にはならない。

ちょっと気になるので日中辞典をいくつか当たってみた。いくら当たってもラブホテルは載っていない。ことによると、この「色情旅館」はフィクションかも知れない。でも、面白い言葉を発見した。「黄昏愛」、これは老いらくの恋の事。老いらくの恋では何となく惨めさが漂うが、黄昏愛ならしてみても良いと思ってしまう。< br>
「小蜜」、これは秘書を兼ねた愛人のこと。外国からの企業進出も盛んで、地場の新興企業もどんどん育っている中国なら、あちこに蜜が甘い香りを漂わせて居るに違いない。でも、あまり甘い蜜ばかり舐めていると、いつか親蜂に刺されますよ。蜂の一刺しはどこでも怖い。

と、ここまで書いた時に、友人で北京大学に留学の経験のある妙齢の女性(勿論、美人)からメールをもらった。そのまま引用すると、

先日の飲み会で話題になった、中国語のラブホテルの言い方ですが、かつての香港で実際に建物に次のように書いてありました。
「別墅(べっしょ)」、簡単に言うと別荘です。
以下を読むとわかりますが、本宅以外に仮に設けた家で、かつては妾宅にも使われていて、その後にラブホテルの名称に転用したのではないでしょか。広東語の辞書にはありません。北京語の辞書にもありません。俗語辞典があれば載っているかもしれません。「別墅」は北京語の読み方で「ビィエ シュー」 「墅」は、田野の中の仮廬の意 。 本宅と離れた地に別に設けた家。別荘。
「奥の細道」に「杉風(さんぷう)が別墅に移る」とあります。これはすぐ別荘とわかりますね。私は高校生の頃にこの字と意味を初めて知ったのですが、実際に使われているのを知ったのは香港に行ってからです。素敵な言い方ではないでしょうか。私が実際に「別墅」に行ったのではなく、街の看板を説明してくれた香港人が説明してくれたのです。
「色情旅館」と言うのは日本人かあるいは日本語なまりの現地人が付けた名前だと思います。龍一さんの言うようにあまりに直接的で品のない言い方ですね。日本語の「色情」は一般には中国語では「情欲」です。

これで中国語でのラブホテルの知識がだいぶ深まった。持つべきは良き友である。

遊人