ぬかる道巻頭言コラム

【『ぬかる道』第464号 巻頭言】
『On the same boat』

ぬかる道巻頭言

巻頭言『On the same boat』

江畑 哲男

トップは時として大きな決断を迫られる。何も政治の世界に限らない。小さな趣味の世界でもそうだ。東葛川柳会40 年の歴史のなかで、今回がまさにそうであった。

多くの同人・会員・維持会員の皆さんには「唐突」に聞こえるかも知れないが、柳誌として『ぬかる道』の月刊体制をいったん取りやめる。文芸誌でよく言ういわゆる「休刊」である。今年度のどこかの時点で、雑誌形式の『ぬかる道』誌は取りやめる。

しかしながら、誤解はしないでほしい。句会は続ける。句会報『ぬかる道』も別途発行する。発行し続ける。より正確に申し上げるならば、雑誌形式をやめて句会報に縮小をするということだ。これまでのような月刊誌から句会報へとスリム化していく。そのようにご理解願いたい。

苦渋の上の「決断」

残念である。誠に残念である。残念でならないが、未来のための決断である。そう理解してほしい。東葛の10年後を見据えた上での今回の判断である。

雑誌形式が維持できなくなった最大の理由は、お金と人の不足である。

会の赤字が止まらない。担当者の配置もままならなくなった。高齢化が進む中で、一部のスタッフのみに過重な負担がかかっている。個人的な奮闘にも限度がある。かく言う代表ですら、毎月ふうふう言っているのが実状なのだ。

柳誌『ぬかる道』。自画自賛ながら、そのレベルの高さは皆さんご承知の通りである。巻頭言をはじめ、「読んでタメになる柳誌」になっている。そう、読み物も豊富で、穴埋めめいた記事は―つもない。拙い投稿には代表がダメ出しをする場合もあるほどだ。

他方、読者の「声」を丹念に拾っているのもわが『ぬかる道』誌だ。巻末の「お便りコーナー」をご覧いただきたい。楽しみにして下さっている読者が少なくない。

「やっと春が来た」という東北在住の幹事のお便りがあったかと思えば、「すでに夏!」の九州からの声まで。さらには、台湾の友人のメールまで紹介をしている。

「短信」欄に注目してくださっている方もおられる。全国の川柳界の動きが分かって便利だ、そんな激励も頂戴する。とりわけ、先月の「短信」欄。台湾人の句碑建立にかかわるニュースや、「川柳、A1時代の苦悩」という取材記事に対しては有識者からの反応があった。誇らしい。

「戸惑い」から「理解」・「共感」へ

人間というのは元来保守的であるらしい。現状を少しでも改めようとすると、必ず「反対論」に出くわす。反対はしないまでも疑問や不安、躊躇が必ず起こる。改革や改良の提案には、つい反射的にNOを言いたがる傾向がある。

その結果、課題を先送りしてしまう(日本の官僚社会の悪弊の最たるもの!)。先送りした結果、どうなるか?ますます「病膏盲に入る」こともしばしばなのだ。

昨年八月、「『ぬかる道』危機突破会議」(永見幹事長の命名)を立ち上げた。幹事有志で今年の三月まで計四回。会議を開いて、東葛の「これから」を集中的に議論してきた。一つのテーマでこれだけ時間をかけたのは、東葛の歴史上はじめてのことだった。

当初は疑問や躊躇、懸念の声が多かった。それはそうだろう。大きな大きな改革、しかも文芸誌としては身を切られるような決定をしなければならなかったのだから。

小生は言った。『ぬかる道』を愛してくれるからこその「反対論」だと信ずる。その意味で嬉しい、有難いことだと。この『ぬかる道』愛がなかったら、ココまで慎重な審議は必要なかったかも知れぬ。

プランもいくつか検討した。詳細は割愛するが、要は冒頭掲げたお金と労力の問題に最後は行き着くのだった。

節約もしてきた。柳誌の簡素化も図ってきた。しかしながら、それもこれも限界。『ぬかる道』のレベルを質量ともにこれ以上下げる訳にはいかない。そのような最終結論に至ったのが、三月下旬の会議であった。

当初は、「代表、何を言う!」「血迷うたか?」、そんな表情の委員が多かった。会議を重ねるにつれて、現状のキビシさが委員各位に理解されていった。最終の危機突破会議では、皆さんの表情も和らぎ、「英断だ!、革命的だ!」とまで評してくれる方もおられた。改めて、お忙しいなか参集してくれた委員各位に御礼を申し上げたい。

スリム東葛」と新たな挑戦と

「危機突破会議」では、もう一点大事な議論をしてきた。東葛川柳会をスリム化すると同時に、マイナスベクトルの変革ばかりでは片手落ち。縮むばかりだ。元気も出ない。開明的な『ぬかる道』(&江畑哲男)が担ってきた川柳の普及・川柳文化向上の活動をどうするか?、であった。

そこで、新たに「川柳文化研究所」(仮称、所長・江畑哲男)を立ち上げることにした。こちらは、主として句会以外の仕事を担う。東葛との関係性で言えば「機能分化」とお考えいただくのがよい。スリム東葛とは協力共同の関係性を保ち、表裏一体でユニークな伝統を守り発展させていく。いわば、車の両輪の役割を担うイメージである。

後者の「川柳文化研究所」は所長を中心に、対外的な文化発信をしていく。たとえば、柳誌『ぬかる道』に代わるメールマガジンの発行やWeb句会の検討、など。当然、川柳界の外側への文化発信を視野に置きながら、である。

はてさて、紙数が尽きた。後者の研究所については制度設計は秋以降になる。しばらくの時間的猶予を乞いつつ、温かい眼で見守っていただきたいと願う。

幹事総会で質問が出た。「一つひとつのお話はよく分かったが、イメージがわかない」と。正直なご感想である。

小生は答えた。「句会常連の皆さんはほぼ今まで通りです。雑誌をスリム化することで、これまで以上に元気に句会を楽しんでほしい」と。加えて言った、「今回の措置は五年後十年後の東葛を見据え、切り開くための決断です」と。表題「On the same boat」の意味、ご賢察を!