巻頭言『メッセ賞はお二人に』
本年のメッセ賞を発表する。第19回「川柳とうかつメッセ賞」は、次のお二方が栄冠を射止められた。三重県の水谷裕子さん、茨城県阿見町の野澤修さん。受賞のおニ人、誠におめでとうございます。
受賞者の横顔(水谷裕子)
受賞者の紹介がてら、まずは作品をご覧いただくことにしよう。水谷裕子作品—
タラレバを捨てれば涼し脳回路
お疲れの付箋を付けて缶ジュース
譲歩した自分に拍手送るなり
野の花よ薔薇の孤独は知らぬまま
村痩せて自販機撤去されし冬
れんげの春でんぐり返りしています
見え透いた世辞にあなたの愛がある
忘れない海岸通り不意のキス
レモンサワー笑っています夏の海
一読してお分かりのように、お若い作品が並ぶ。裕子さんの環境が、語彙から、作品から、仕立て方から感じとれる。「現役」「労働」「日常生活」「恋心」「(多少の)茶目っ気」といった雰囲気を存分に漂わせながら。
選者の立場から申せば、「お疲れの付箋を付けて缶ジュース」という句には驚かされた。「お疲れの付箋」なる表現に既視感が全くなかった。「お疲れの付箋」ならぬ「おめでとうの付箋」を、お返しに貼って差し上げたい。
遠方の受賞者の前例はある。ただし、小生がお目にかかったことのない受賞者は初めてである。それゆえ、作品からそのお人柄を推測するしかない。そこで、人柄を初彿とさせるメールをご紹介しておく。受賞内定のお知らせをしたときの返信が下記だった。
受賞者の横顔(野澤修)
もうお一方は野澤修さん。こちらは皆さんご存知の方である。ご本人はトシだトシだとのたまうが、川柳界的にはまだまだお若い。年寄りの部類には入らぬ。明る<何ごとにも一所懸命で、それでいて肩肘を張らない生き方をされているようだ。会員の好感度も高い。ここ数年向学心が俄然甦り、いま期待を寄せている同人の一人でもある。
ぶっちゃけ、一時期の修作品は低迷していた。このまま低空飛行を続けてしまうのかと心配もしたが、どっこい勢いを盛り返してきた昨今である。勉強会では遠慮なく質聞を繰り返し、選者研究会の常連メンバーにもなっている。精進のたまものであるとご祝辞を申しあげたい。
そうそう、句会吟でも気を吐いている。二月句会の宿題「難題」(三句連記)では、「難題は前立腺に潜んでる」を投句。リアリティとユーモア精神との相乗効果が感じられた。東葛ユーモア句の本道を行く名句であろう。
ボタン穴閉じてしまった反抗期
広重が夕立で人走らせる
母の日はくつきり父の日はぼんやり
深夜便眠りを呉れるコンテンツ
花が好き若葉が好きなスニーカー
冷静に安い皿割る山の神
徴兵の無い幸せな日本地図
「西の川柳塔、東の東葛」!?
再び申しあげる。句会にどうぞおいで下さい。”句会は道場!”なんです、と。その句会。コロナもようやく収束を迎えつつあり、リアル句会の楽しさが甦ってきた。
去る3月、大阪出張の折りに川柳塔(主幹小島蘭幸)の例会に立ち寄った。事前に予告していたこともあり、宿題「好意」の選を仰せつかる。出席者98名は(欠席投句者17名)壮観。リアル句会の醍醐味を大いに味わった。
『川柳塔』誌にも「江畑哲男選」と記載されていたので関西圏の人はびっくりしたらしい。「哲男さんの選があるから駆けつけた」と言ってくれた方もいて嬉しかった。
わが東葛川柳会も通常句会出席者が100名を越えたことがあった。コロナ前の一時期には何度かあった。どなたかが仰っていたこと。いま面白いのは、「西の川柳塔、東の東葛」だと。有り難い対句表現と拝聴している。
野球はベースボールを超えた!?
さてさて、日本中を興奮の渦に巻き込んだのがワールドベースボールクラシック(WBC)だった。日本時間22日(水)午前、アメリカ・マイアミでの決勝戦は日米対決と相なった。連覇を狙うアメリカ代表を、日本代表「侍ジャパン」が 3対2 で打ち破り、今大会7戦全勝で3大会ぶり3度目の優勝を飾った。世界一になった。
TVの生放送は平日の午前にもかかわらず、驚異的な視聴率をあげた。侍の勝利に日本中が酔いしれた。新聞・週刊誌・月刊誌・単行本等の活字媒体も、この時とばかりに読者の購買意欲をかき立てていた。
少々違うアングルから、メイクドラマを眺めてみよう。小生は以下のような感想を抱いている。
① 野球が再び脚光を浴びたのはけっこう。とくに、理論面にも注目が集まったのは喜ばしいことだ。不勉強な解説(者)はこれからは相手にされなくなる。この点、個人的には古田敦也元ヤクルト監督の力量を高く買いたい。
② 野球関連の書物を乱読していたことが役立った。『野球はベースボールを超えたのか』(ホワイティング・ロバート著)をはじめ、野村野球の理論書やさらには池井優先生の著書などを読んでいたことで、WBCを数倍楽しめた。理論のないスポーツに「進化」の文字はない。
③ 大谷翔平やラーズ・ヌートバーらの活躍と同時に選手の個性にも注目が集まった。併せて、日本文化や日本人論に言及され始めたのはなおよかった。小生も「熱血川柳ブログ」で大いに吠えた。教養の一端(笑)をご披露した。
残念。紙数がなくなった。川柳を答辞に用いた卒業式のエピーソード、特別寄稿「孫の句も面白い」(後掲)など、今月号の『ぬかる道』も読み応え満載。名古屋大学多文化共生川柳コンテストには言及できず。またの機会に稿を起こす。引き続き、本誌のご愛読を乞う。