えっ? それ本当? と信じ難いこともありました。
その昔ロンドンの青果店で、林檎を数個買おうとした時のこと、どれにしようかなと選んでいると、その店の主人から「あんた、何しているんだ!」と怖い顔で睨まれたことがありました。
その時の私には、店主の不機嫌な意味がさっぱり分かりませんでしたが、どうやらこの国の青果店では、客は品物を選べないらしいのです。
青果店の客は常連でも、上得意であろうとも、商品を選ぶ権利はないらしいのです。
「客は品物を選べない」と言う暗黙の決まり事を、私は全く知りませんでしたので、恐れも知らずに選ぼうとした訳です。店からみれば、私は相当不届きな、無礼者に見えたことでしょう。
青果店では、店のオヤジが一方的に選んで寄越す品物を買わされると言うことを、その時初めて知ったのでした。店の主人は、早く売ってしまいたい品物から、客に売るのでした。
その時、私と一緒にいた英国人の友人は、自分の家族に、「彼女(私のこと)は、店で林檎を選ぼうとしたのよ!」と半ば呆れたように、また勇気ある人ね!と賞賛するように、私の所業を報告して面白がったのでした。それほど「青果店で選ぶこと」は、とんでもない行為だったようです。
この国の青果店では、先に売ってしまいたい物から、客に売りつけることが、当然の権利として認められているようでした。
私は驚いて、誰もみな青果店のやり方を受け入れているの?と友人に訊ねたところ、「昔からの習慣だからね。もし自分で品物を選びたい時には、スーパーマーケットに行くのよ」と、当然のように言うのでした。
権利意識が強く、はっきりと自己主張する英国の人々が、この青果店方式を受け入れているのには、大層驚かされたものです。
日本の青果店だったら、早く売りたい品物は値引きして、客に選ばせて売るのが一般的なやり方だと友人に話すと、それは良い方法だと、一応日本方式の良さを認めてくれたのでした。
私の体験は半世紀以上も昔のことで、英国の青果店では、今でも相変わらず、客には選ばせない商売をしているのか、その辺は不明です。
他にも日常生活で、少々奇異に感じたことがありました。それは英国人のティッシュ・ペーパーの使い方を見た時のことです。
鼻をかんだり、鼻水を拭ったティッシュを、ポケットや袖口に突っ込んでおいて、またそれを取り出して、鼻をかんだりするのを再々目撃したことがありました。
どうすればそれが可能なのか、使用済みのティッシュをまた使うのは、相当難しいだろうと思ったものでしたが。
このティッシュに関しては、私が目撃した人たちだけではなくて、これが極く一般的なやり方なのだと思えるのでした。
その理由は、それから約40年もの歳月を経て、私の息子が英国に駐在した時、やはり英国人のティッシュの使い方が気になったようで、息子は「イギリス人は使ったティッシュをしまっておいて、また使うんだよ。汚ねえんだよ!」と呆れて話したことがありました。
ある時、このティッシュの使い方が話題になった時、ドイツ通の男性が、ドイツでも同様にティッシュを2回以上使うことがあると言ったのには、驚かされました。
私の考察によれば、このティッシュの使い方は、今のようにティッシュが無かった時代には、欧州の人々は、ハンカチを携帯して鼻をかみポケットや袖口に入れて、また使ったことの名残りのように思えるのです。ハンカチは、何度でも使用されたことでしょうから。
これもまた生活習慣や文化の違いなのか、ロシア人の女性が、人前で鼻の穴を掃除するのを見た事がありました。
ソビエト時代のこと、中年のロシア人女性は政府の高官で、車座に座った日本人との公的な話し合いの場面で、話しながらハンカチを取り出し、鼻の穴に突っ込んで掃除をしたのでした。
その動作は、極く普通のことをしている様に、周囲の眼を憚る様子もなく、詫びれる様子もなく、堂々と喋りながら鼻の穴の掃除をしたのでした。
これには本当に、ただ唖然として驚きましたが、かの国ではごく普通のことなのか、それは許容される程度のものなのか、かの国のお行儀の基準が、私には分かりませんでした。
えっ! それ本当? と俄かには信じられない話ではありませんか?
私の川柳です。
習性は棚上げにしてお付き合い