ぬかる道巻頭言コラム

【『ぬかる道』第439号 巻頭言】
『娼しい報告、三つ』

ぬかる道巻頭言

巻頭言『娼しい報告、三つ』

江畑哲男

今月号は嬉しい報告から。

「川柳とうかつメッセ賞」の今年の受賞者が決まった。増田幸一さん(柏市)である。毎月「メッセ」欄への投句を欠かさないのはもちろんのこと、句会でも近詠でも最近大いに気を吐いている。その充実ぶりは他の模範である。「幸一さんのようになりたい」、「幸一顧問にあやかりたい」という声が、ますます高まってきている。こうした活躍と評価の声を背景にして、このたびの受賞が決まった。文句ナシの受賞であろう。おめでとうございます。

しかも、本年(令和六年)は第20回の記念すべき「川柳とうかつメッセ賞」となっている。栄えある年の受賞者に最もふさわしい方が選ばれた、と言えるだろう。

では、その増田幸一作品を覗いてみる。左記はいずれもメッセ欄から採った。

宇宙旅行青い地球が見たいだけ
パラサイト眠れる獅子と思いたい
雑然とした僕の書斎の合理性
一房のぶどうが残るクラス会
|Tに遠い秋刀魚の炭火焼
念のため領収書とる手切金
九層倍効けば薬は安いもの

ご覧いただいてお分かりのように、題材がじつに豊富なのだ。宇宙開発から政治、さらには社会的事象やITに至るまで、多彩なテーマをご自身の世界にしつかり取り込んでいる。ご立派!、の一言だ。

あくまで一般論であるが、年齢を重ねるとどうしても視野が狭くなる。自分本位で、日常の些細なことしか目に入らない。思考も発想も保守的、かつ硬直化しがちだ。ところが、我らが増田幸一さんはそうではない。たぶん、温厚なお人柄の裏側に、飽くなき好奇心が渦巻いているのではないか、と勝手な推測をしている。

句会吟も同様。政治・社会・文化・流行等のテーマに混じって、時として色っぽい話題をも平気で作品化する。呼名を聞けば、「増田幸一」と名乗りを上げる。幸一さんの呼名を聞いて、句会場が笑いに包まれるという場面が何度もあった。そう、いまや東葛川柳句会のアイドル!(笑)の一人となっているらしい。

メッセ賞受賞者にはオリジナルトロフィーを授与しているが、そのトロフィーに印字する作品を伺ったところ、次の句にして欲しいとの返事をいただいた。

「令和元年家の象徴だとさ僕は」(増田幸一)。曰く、「印字する句は、自分史のレジェンドとしてスケールの大きな作品を選ばせていただいた」と。これまた結構な話。

今後のご活躍とさらなるご長寿を祈念して、メッセ賞授賞のご祝辞とさせていただきたい。

賑やかに楽しく、台湾川柳会30周年記念

嬉しい報告の二つめ。

3月3日(日)、台北市の國王大飯店にて台湾川柳会創立30周年記念記念句会が賑々しく開催された。
参加者は60名(日本側42名、台湾側18名)。海の向こうの会場で、しかもパスポートが必要という条件下でこれだけの人数が集まった。それだけでも目を瞠る快挙。そう言ってよいであろう(写真)。

3/2(土)中央、帽子姿は千葉憲久さん

何しろ、賑やかだった。笑いが絶えなかった。この楽しい楽しい記念句会の様子については、今回思いきって、表紙2のスペースを全面的に割いた。表紙2をカラー写真で埋めて、記念句会の雰囲気を味わっていただくことにした。本巻頭言と千葉憲久さんの報告も含めて、記念句会の余韻を味わっていただきたい。

格好つけて言うならば、「意義ある国際交流」だった。「民間外交」とも言えるが、そんな堅苦しい名称は似合わない。要は、「近くて近い台湾」を思いきり楽しんだのだ。

台湾という地政学的な位置ゆえに、大国チャイナの圧力に絶えずさらされている。そこで小生が感じたのは以下の二点である。

(ア)最大の福祉は、国民の安全・安心(=安全保障)にあること。
(イ)自由とは、こうして人と人との交流が持てること。

なお、日本側出席者には全日本川柳協会小島蘭幸理事長をはじめ、多くの川柳仲間の姿があったことを付記しておく。

 

3/3(日)挨拶する
全日本川柳協会小島蘭幸理事長

 
 

3/3(日)於 國王大飯店
壮観! 全員集合写真

前夜はちょっびりお勉強

写真は、大会前夜の卓話の様子である。

 

3/2(土)
卓話する早川友久氏

 
 

講師は、早川友久氏(李登輝元総統秘書、現在は日本台湾交流協会事務所広報文化室長)をお招きした。

卓話に先だって、かなりムチャなお願いをさせていただいた。「初めて台湾を訪れた方にも、何度も台湾に来ておられる方にも、具体的で分かりやすい内容を」という依頼をさせて貰った。
にもかかわらず、まだ40代のお若い講師はさすが。硬軟取り混ぜた、台湾と日本に関わるエピソードを披露して下さった。「台湾で活躍した日本人」と題して、ビジュアルな資料をもとに、一話完結のエピソードを次々と展開してくれたのだった。

(a)旧五千円札でおなじみだった新渡戸稲造。糖業の復権に貢献。著書『武士道』は世界的ベストセラーだった。
(b)当時東洋一の烏山頭ダムを建設して、台南の嘉南平野を一躍農業地帯に変貌させた八田與一技師。
(C)食べて美味しい蓬莱米を開発した磯栄吉。台湾啤酒(ビール)の主要原料にも、蓬莱米の名がしつかり刻まれている、とな。知らなかった!さすがの蘊蓄。
(d)さらに、台湾民主化の父・李登輝元総統。李登輝総統の最後の秘書を務めた早川氏ならではの秘話も、いくつかご披露いただいた。そしてその締めの言葉は下記であった。

「日本人が、理想の日本人を作ろうとしての出来上がったのが李登輝という人間である」と。
卓話の印象は深かったようだ。何人かの同行者から小生に感想や質問をお寄せいただいた。いま振り返っても、最高・最適な講師をお招き出来た!、と胸を張って言える。お忙しいなかを、本当に有り難うございました。

収穫大、記念句会後の台湾で

三つめは、記念句会後の台湾。

小生はその後も台湾に滞在し、3月6日(水)台中市の静宜大学にて特別講義。若い人向け(日本語専攻の学生)の授業は久しぶり。やっばり、よかった。

  

3/6(水)静宜大学図書館前にて
( 右端が頼衍宏先生)

 
  

受け持ったのは下記2コマ。
講義Ⅰ:「コロナ下に於ける川柳の活動と韻文の持つ役割」(110分)。
講義Ⅱ:「小説『羅生門』を読む」(105分)。

3/6(水)授業する江畑哲男代表

講義Ⅰでは、パワーポイントを駆使。川柳の講義に入る前に、「コロナ前史」として東日本大震災時の支援への御礼を言う。世界最大、ダントツのご寄付とご支援をしてくれた台湾。その御礼を日本人の一人として申し上げた。

3/6(水)授業で使用したスライド

講義は続く。

(ア)コロナ禍と川柳(日本中が極度の緊張感で過ごした数年間。川柳という文芸が、高齢者にも若者にも励ましを与えた事実を縷々解説。)……、スライド10数枚をお見せして解説を施した上で、いよいよ本題に入った。
(イ)世界の中の日本文明
(ウ)ドナルド・キーンの業績
(エ)日本語の魅力
(オ)川柳の魅力

一方、講義Ⅱではパワーポイントを一切使わなかった。大胆にも、「ナマ」の日本語だけで「小説の読解」の基本を解説。教材は『羅生門』。日本の高校生の国語教科書に100%収録されているのが『羅生門』(芥川龍之介)である。情景描写や心理描写の妙を味わうとともに、日本近代文学への小生なりの問題提起もしておいた。

さらにさらに、帰国後の3月30日(土)。文京区内で開催された台湾セミナーの講演に、杜青春さんが出席してくれたのだった。おそらく、先の訪台の御礼も兼ねての訪日だったのだろう。その義理堅さに感謝、感謝!

私たちは、なぜ「安心」して台湾に行けるのか?小生なりに分析はこうだ。

(ⅰ)親日の国であること。
(ⅱ)治安が安定していること。高校生の海外修学旅行先は台湾が一位になった。米豪を抜いたのも頷けよう。
(ⅲ)トヨタの車が走り、どこに行ってもコンビニがある。日本でもおなじみの店舗が並んでいる。
(ⅳ)表意文字の安心感。「歡迎光臨」「牙醫」「按摩」などなど。この漢字文化の「恩恵」に着目したのは小生ならではのことと、さるお方からお褒めを頂戴した。

春の息吹の『ぬかる道』

さてさて、4月になった。新年度が始まった。『ぬかる道』誌面にも春が訪れた。新しい表紙絵。ジュニア欄の担当者の変更。新幹事就任、等々。同人や誌友交流のための新コーナーも、近々『ぬかる道』誌にお目見えする。小生への講演依頼も増えてきた。川柳の息吹を届けよう。