ぬかる道巻頭言コラム

【『ぬかる道』第438号 巻頭言】
『第二のD・キーンは生まれるか?』

ぬかる道巻頭言

巻頭言『第二のD・キーンは生まれるか?』

江畑哲男

という訳で、台湾から戻ってきました。
楽しく有意義な旅でした。大きな大きな収穫を得て帰国しました。おかげさまで、元気に戻って来ることができました。有り難うございます。少々大げさですが、まずは帰朝のご報告をさせていただきました。

台湾(川柳会)との絆

おっと、その前に一言。本稿の舞台裏を明かしましょう。
じつは、この原稿を書いているのは、出発前!(笑)。それゆえ、「たぶんこうなるだろう」と想定しての巻頭言なのである。編集上の都合があって、出発前の3月1日にこの原稿を書き終えた。文体もいつものどおりの「である体」に戻しながら。

さてここで、台湾との絆を振り返ってみたい。

東葛川柳会が初めて台湾を訪れたのは、平成17年(2005)3月のことだった。小生を団長とするツアーを組んだところ、総勢22名の大部隊となった。このあたりは大戸和興顧問(当時)の報告文に詳しい。

台湾観光を兼ねると同時に、東葛川柳会と台湾川柳会が合同句会を行うという画期的な催しでした……江畑哲男代表のたぐいまれな企画力と実行力で実現しました。

秋田銀の笛社の長谷川酔月主宰一行、一日遅れで川崎信彰当会幹事ら一行も合流した。参加者の中には、いわゆる「湾生」(台湾生まれの日本人)の人たちがいた。加島由一(大阪)、上田良一(秋田)さんらであった。

そうそう、最年長参加者と思われる濱川ひでこさんもツアーに加わった。高校を卒業したばかりの孫娘さんと一緒に参加してくれたのだった。いま思い返せば、よくぞ参加してくれたものだと思う。
そのひでこさんは書いている。

東葛の吟行会は希望がいっばいです。東武トラベル添乗員の古田さんには、最初から最後まで色々気を使っていただきました。……現地の川柳会との合同句会は、二日目の午後で、とても日本語の上手な方々で、川柳もお上手で驚きました。
懇親宴に、蔡焜燦氏、黄智慧さんら

3月28日(月)、念願だった日台合同句会を実現。句会選者は加島由一、村田倫也、頼柏絃、笹島一江、高痩叟の各氏と江畑哲男が務めた。宿題「自由吟」で哲男が天位に抜いたのは、李琢玉台湾川柳会会長の一句。「ケータイ語曾っての邦が遠くなり」。さすが!、であった。

その夜の懇親宴では、老台北・蔡焜燦先生や民俗学の黄智慧さんら著名人も駆けつけてくれた。蔡焜燦先生からは卓話を頂戴した。時間は短かったが、「日本統治時代が如何に良かったか」(和興レポート)を熱っぽく語られた。

初めての台湾旅行ということで、「予習」をして参加した方が何人かおられた。その一人が船本庸子幹事。
庸子幹事は図書館に行き、『街道を行く(台湾紀行)』や『台湾人と日本精神』を旅行前に読み終えた。読後感には、「日本という国に誇りが持てました」と記す。
懇親宴時には蔡焜燦氏にサインをねだり、左記の色紙を頂戴したと感謝の報告を書いた。「船本庸子さんへ 日本よ、台湾よ、永遠なれ 蔡焜燦 2005年3月28日」(『ぬかる道』平成17年5月号「老台北のこと」)。

李琢玉会長とは初対面だった。流暢な日本語を操る一方、骨っぽい一面も垣間見せた。印象的な初対面になった。

ついでながらもう一言。
台湾川柳会の現代表・杜青春氏は、日台交流川柳史にはこの段階ではまだ登場していない。杜青春さんと小生が初めて会ったのは川柳の集まりではなかった。ナント、教育研究会の会場だった。
平成21年(2009)12月、台湾新竹市の中華大学で「第33回日台教育研究会」が開催された。この会場にわざわざ来てくれたのが、川柳を始めたばかりの杜青春氏だった。頼柏絃台湾川柳会第三代会長の命を受けて、小生を歓迎の宴まで道案内してくれたのだった。

ついでのついで。
その日台教育研究会で、江畑哲男は発表者の一人として登壇した。テーマは「韻文の授業と『心の教育』」。発表は日台の「同時通訳」で進行した。同時通訳という形式での研究発表は、この日が初めての体験。刺激的だった。社会の変遷は青少年の価値観に大きな影響を与える。その頃(現在も基本的には変わらないが)、豊かになった台湾と日本とが共通に抱える課題が、「道徳教育」「人格教育」(character education) の根底に横たわっていた。

今だから明かすが、現役の教員と川柳活動との二刀流は本当にきっかった。ハンパなかった。よくぞ、やってこられたものだと我ながら振り返る昨今ではある。

第二のドナルドキーン誕生を夢見て

話を戻して、今回の訪台。

小生の旅程は、3月2日(土)〜7日(木)の五泊六日。3日(日)は、台湾川柳会30周年記念大会(台北市内、國王大飯店)。夕方からは懇親会。すばらしい大会だったと、出発前に書いてしまおうか(笑)。

小生はその後も少しだけ滞在期間を延ばした。台中の静宜大学にて特別講義を行った。講義はニコマ。
一つめは、川柳関連。「コロナ下に於ける川柳の活動と韻文の持つ意義」。久々に、パワーポイントを使ってビジュアルな講義を展開。東葛のHPの作成と更新にお世話になっている中村恭子さんに、準備の手を煩わした。

もう一つは、小説の鑑賞。『羅生門』(芥川龍之介)を取り上げる。こちらは自信がなかったのだが、台湾の頼衍宏先生のたっての要請で、とうとう引き受ける羽目になった。第二・第三のドナルドキーン誕生を夢見ながら、予習を心がけた。こちらも首尾上々だった!、と書いてしまおう(笑)。……、この続きは次号をお楽しみに。

目下の悩み。会務に追われて自分の勉強が出来ない。